浮遊
ホロウ・シカエルボク




静かに
のたうちながら
瞬間に
翻るものたち
薄明かりの
下で
くるくる
くるくる


退屈しのぎ
口にした旋律は
出鱈目なものだった
二度とない
軌跡を描いて
片隅に
消えた


虫の居所は
行方不明
かろうじて
憤ったような
感情の欠片が
あった


爪切りの後で
逆剥けた指の皮
歯で引きはがして
滲んだ血を舐めた
研いでいない切口で
舌の先を切った
それからずっと
血の味だけがしている


俺はヒトゴロシにはならなかった


カーペットの上の
焼菓子の屑
それがいつのものか
思い出そうとしたけれど…
目に浮かぶのはなぜか
まるで関係のないことばかりで


少しの間目を閉じて
この身体が呼吸する音を聞いていた
波のように繰り返したかった
でもそれには遠過ぎた
明日がもしも
明るい光を指すのなら
俺はきっと時間を無駄にしている


今はもう存在しない
魚の影を追っているやつらの話を見た
影を追いかけていると
きっとそいつらも影のようなものになる


俺の
光の受け止め方は確かかな
俺の
闇の見つめ方は間違ってはいないかな
目を閉じていればいい
そうすれば夜は終わるのに
出鱈目な旋律が仇になって
時間じゃない場所に留まってしまう


スマートフォンのディスプレイ
塗り潰されてく入力画面
この言葉たちの理由は何
入力される意思の理由は何
誰に宛てた手紙でもないはず
誰に向けた言葉でもないはず
ただ迷子になっただけだった
眠りを逃して時の迷子に


壁にかけた安物の時計
充電している携帯電話に時折届く
得体の知れない連中からのメール
全てが静かになるのを待っていた
全てのものが沈黙して目を閉じるのを


いつかは眠れる
くだらないことは考えなくていい
ほんの少しシステムが乱れているだけさ
どこかさほど重要じゃない線が
断線しかけて反応が鈍くなっているだけなんだ


不思議な声で鳴く鳥
やつの顔を一度拝んでみたいけれど
あいにくこの部屋の窓からじゃ見渡せるものはあまりない


もう重要じゃなくなった
たぶん
眠れないことなんて





自由詩 浮遊 Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-10-16 18:56:13
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