真夜中にあれこれのかたちをどうのこうの
ホロウ・シカエルボク







羊歯の葉を滑り落ちた雨垂れが棄てられたショッピングバッグに落ちる
夜は街の明かりに隠れながらいつの間にか途方も無い闇となり
僕は雑草の生えふさぼったベンチひとつだけの公園の中で
こちらの様子を伺いながら距離を開けようと強張った猫を見ていた
携帯オーディオプレーヤーから細いコードの中を潜り抜けて
脳味噌に遊びにやってくるのはルー・リードの最後の歌声
メタリカと一緒にやったやつさ…詩人の為のアルバムさ
だからジャンルを美学にしてるようなやつらにはまるで理解出来なかった
あれは現在進行形のポエトリー・リーディングだったんだ
猫の姿が見えなくなってベンチに腰を下ろした
雨の後で汚れていたけれどそれは別に構いやしなかった
どうせこのあとは住処に帰るだけなのだから
そういえば昨夜はずっと眠れずに荒れ狂う風の音に耳を澄ましていたっけな
台風の間昼のワイドショーの連中はずっと楽しそうだった
とくにあの、大阪から進出してきた偉そうなおっさんの番組ときたら…
ふいに明るくなって見上げたらしつこく居座る雨雲の間から月が出ていた
「月はどっちに出ている」ずいぶん前に公開された映画のタイトルだったっけ
月を見るとたまに思い出すんだ、映画を観たことは無いけれど
草むらではたくさんの虫が様々な音色を鳴らしていた
彼らの声はよく楽器に例えられるけれど…いつまでもチューニングをしてるみたいな
そんな気楽さはちょっと僕らには真似出来るようなものじゃない
音の中にあるテーマみたいなものが多分まるで違うのさ
人間であんなふうに鳴らせるのはたぶん忌野清志郎ぐらいじゃないかな
月は長風呂から上がって一息ついてるみたいな間の抜けた黄色だった
月は女をおかしくするって本当かな、少なくとも酒飲みは飲みたくなるらしいけど
満月の夜は女の犯罪が増えるって話、昔本で読んだんだ、だけど
満月の夜じゃなくたって女の犯罪が多い日はあるだろうな
こんな風に言うと、そう、結構な人が眉をしかめると思うけれど
女の罪ってある程度は治外法権みたいなところあるしね
…っと、僕は別に女性蔑視とかそういうのの持主じゃないよ
(そういう枠を作る人たちのことは喜んで差別するけれどね)
誰も居ない夜だからって発言には気をつけなくっちゃね
とくに最近は文脈もろくに読めないような盆暗たちが言葉狩りをしてるからね
増徴する馬鹿につける薬なんて何も無いし
そんなやつらのために言葉を選ぶことなんかするつもりも無いけどさ
そう、しばらくの間、くだらないことを言いながら夜を回遊したいだけなのさ
くだらないことを言いながら夜を回遊したいだけなんだ
四国の香川ってとこの屋島っていうところに旅館とか水族館があってさ
そこの水族館の二階には周りをぐるりと囲んだ馬鹿でかい水槽があって
二メートルのピラルクがそこを回遊してるんだ、のんびりとね
子供のころはあの水槽が怖くて仕方が無かった、割れるんじゃないかって
もしも割れたら自分はきっとあのどでかい魚に食われてしまうんだろうって
いまではもう少し安心して見ることが出来るだろうけど
あいつはまだ生きているのかな、こんな僕の思い出になってるなんて
きっと、夢にも思ったことは無いだろう
鯨のペニスが置いてあるのは桂浜の水族館だったかな…
ともかく、僕は回遊するんだ、あの時目にしたピラルクのように
のんびりと歩いて、大通りを横切り、コンビニにでも立ち寄って、余計なものを買って
考えてみればおかしな話だ、僕のようなおかしな人間が、他人のモラルだなんだに
うだうだケチをつけてみるなんてさ、だってそもそもどうでもいいことに間違いないのに
やっぱり月が僕を少しおかしくしたのかもしれないな
僕の男根は勃起はするけど強姦はしないから、あんまり男らしくはないかもしれない
ああ、別に男性蔑視論者でもないけどね…そもそも性別の優劣なんて
そんなことをクソ真面目に論じるぐらいくだらないことは無いと思うし
「あいつはいい」「あいつは駄目だ」「みんな糞だ、乾涸びた糞だ」
区別(あるいは差別を)をするくくりがあるとしてもそれくらいのことさ
それは多分相手がどうこうというよりは僕の好みのようなものだし
それをことさらに吹聴するような真似も別にする気は無いけれどね
まあ、最後にこのくだらないひとり言に終いをつけるとすれば…
「僕のペニスは水族館に保管されることはない」、そんなことでどうかな



あっと…
動物園
にもね






自由詩 真夜中にあれこれのかたちをどうのこうの Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-10-15 01:20:04
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