ランド(瞬きも出来ないほどの)
ホロウ・シカエルボク







残像が鮮やか過ぎて現実が認識出来ない、通過したものだけが確実だ、通過したものだけが確実で、そいつらがどこに行くのかはまるで理解出来ない、次々と生み出される命の遺産、明日までがそいつで埋め尽くされるみたいな幻想に囚われて鼻を鳴らす、落ちていく夜に磔の途方も無い十月、撲殺願望のようなものだけが静かな鼓動を続けていた、日常に這い蹲って…サイドワインダーがのたうつようなインプロヴィゼイション・ジャズの摩擦熱、脳味噌はぶすぶすと煙を上げる、そら、狂うときだぜ、誰にも知られずに―部屋の片隅にはどこかの解体中の家屋の敷地内から拾ってきた齧りかけのショコラケーキのようなセメントブロックの残骸がある、そいつに額を打ち付けて…じりじりとした痛みと、はたはたと落ちる血液の紋様、カーペットを彩り、俺はハイになる、命は傷を受けてナンボだろう、心は打ちひしがれてこそ火を灯すだろう…脳が弛緩したような幸せなど欲しいと思ったことは無かった、狂えるワールドでこそ正気は閃光になる、漆黒の闇の中で爪の先ほどの穴から漏れる光が希望となるように―言い訳めいた純粋などグレーチングの隙間から溝に捨ててしまうべきだ、純粋が腐臭を放つさまはさぞかし滑稽だろうぜ…美しい言葉だけで語られるものを信じない、美しい旋律だけで語られる音楽を信じない、邪な神がもっともらしい言葉で民衆を騙すようなやり口は…パレードで賑わう幸せなアベニューを、血塗れで笑いながら走り抜けたいのさ、俺がやりたいのはいつでもそんなことだぜ、視点を変えることさ、視点を変えることだ、視点を変えることだぜ、視点を変えて見せることが何よりも大事なことなのさ、俺は俺の言葉を信用しない、そのときたまたまそんな風に出てきた、ただそれだけのことだもの、鎮静剤で狂気を消せるわけじゃない、それはいったんおとなしくさせるための手段に過ぎない―ずっとおとなしくさせようと思えば、そいつを打ち続けるか―殺すより手は無い、そうだろ?もっと高く叫べ、もっと猥雑に並べろ、整理されたものが語ることは限られている、そのとき、そのスピードで語ることの出来るすべてを語るがいい、簡潔に済ませるのは年寄りがすることだ、本当に美しいものはいつも、物凄い速度で駆け抜けているはずだ、そうだろう、そうじゃないかい、お前がめにしたものにそういうものはひとつもなかったかい―本当に何もかもを吐き出すことが出来たら、きっとそれ以上生きる必要は何も無くなる、それは生命を追い越したということだから、世界の外に出たということだから…人間であるべきではない、俺の真実はいつでもそう叫んでいる、この肉体はただただもどかしい、この言葉は、この感情は…速度によって振り切ることが出来るのだ、脳味噌が追いつかないようなとんでもない速度によって―狂えよ、詩人たちよ、言葉の渦はエネルギーになって、煩わしいものたちを振り切るだろう、俺は速度の化身となって、この魂を駆逐したいのだ、人間であることになどなんの意味も無い、それは飛び越えなければならないものなのだ、生を賛美するような間抜け面は、そうさ、撲殺してしまえばいい…本当のことには決して追いつけない、だからこそ追いかける意味があるのだ、血眼になって…そいつらの足跡を、軌跡を…羅列によって勢いを模写するのだ、速度を、そう、速度を…記憶になる前にすべて吐き出してしまわなければ、きっとどんな焦燥も納得させることは出来はしない、適当な景色なんて描いてるんじゃない、俺が行きたいところはひとつだけ、俺が目にしたい景色はひとつだけ、この肉体を飛び越えたところ、この魂を飛び越えたところ、この境界線を突破して、新しい様相を築き上げる、俺が行きたいところはひとつだけ、俺がやりたいことは―どうしたって間に合いやしない、そんな苛立ちがただただ心地良いのさ、どこまでも踏み込めるアクセルを踏み込んでいるような…判るかい、そういう気持ち、俺は本当の突破を知りたいのさ、本当にすべてを振り切って、何もかもがそのスピードに追いつけなくなったとき、振り返ってみるとさぞかしいい眺めが見えるだろうぜ…混沌も、清純も、血肉も、魂も、快楽も、痛みも、燃やしちまえばすべて灰だ、石炭を燃やすように次々と投げ込むのさ、燃料にならないものなんて何も無い、あらゆるものが振り切るための理由になる、脳味噌が煙を上げる、狂うときが来た、狂うときが来たぜ、最高の気分だ、一気に振り切るのさ、そうして、初めての景色を手に入れよう、初めての旋律を耳にしよう、初めての羅列を描こう、初めての魂を飲み込もう、まだ先がある、絶対に追いつけない、命がすっぽ抜けるまで描き続けるしかない、ぶっ飛ばして…




そうら!そこから、聞こえるかい!






自由詩 ランド(瞬きも出来ないほどの) Copyright ホロウ・シカエルボク 2014-10-18 00:06:32
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