飛び立とうとしていた
rabbitfighter


拭っても拭っても血が止まらない。ただティッシュを赤黒く染めていくだけで、何かほかにやりようがないかと思い、その血で化粧することを思いつくが、部屋には鏡がなく、窓ガラスに映して見ようかと振り向くと窓は開け放たれている。


窓は開け放たれている。風が舞い込んでくる。全ての軽いものがなびき、ふるえ、音を立てる。光はいつも正しい方法で触れようとする。だからすばやく目を閉じて、その光をまぶたの中に閉じ込めようとするが、暗闇だけがそこに残る。


暗闇だけがそこに残る。後味の無い液体。金属の感触が満月を捕捉して満たされない心の風景を露にし、その後に味の無い液体が残る。言葉は乱暴にそれらを説明するから、一つの物語には一つの結末が用意されている。


一つの結末が用意されている。適切であるという保証はないから、書き換えてしまってもかまわない。誰かが死なない代わりにほかの誰かが死んだことにして、何食わぬ顔で朝食を食べよう。花瓶には花が生けてある。


花瓶には花が生けてある。もうすぐ蕾が開き甘く香るだろう。待ちきれなくて無理やり花びらを開かせると、かすかに消毒液の匂いがして、小さな虫が死んでいる。種の時代から共に育ち、花開くその時にそこから飛び立とうとしていた。


飛び立とうとしていた。



自由詩 飛び立とうとしていた Copyright rabbitfighter 2014-03-15 03:48:52
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