大雪
藤原絵理子


ホームセンターの駐車場が真っ白になった
マンホールの蓋の上だけは真っ黒い
空からは ぽってりした雪がまだ落ちてくる
やがて ぽっかりと蓋が開いて
隣のおばさんが上気した顔を出す

「こんなに雪が積もったんだから
いろんな人にお伝えしないとねえ」
おばさんは得意げに言う
それはどのみち
鼬や洗熊や大熊猫への御注進だ

自然科学の‘し’の字も知らないガキが
わけのわからない術語を並べただけの詩を作る
マックスウェルの方程式も知らない
偽名の大人がそれを誉めそやす
まるで防犯カメラの映像である

ポルシェに乗ってきた向かいのおじさんは
ホームセンターの駐車場で雪像を作る
昔の学校にあった木椅子に座った
かわいい女の子の像
両手をひざに置いてこっちを見つめる

じっと雪像に見つめられて
おばさんは 手に持っていた5個入りのティッシュと
12巻入りのトイレットペーパーを
放り投げるように駆け出すが
アシックスのスニーカーでは雪に滑ってしまう

「みんな正直になりゃいいんじゃないの」
弘法大師のコスプレをした白ウサギが
赤い目をしばしばさせて言う


自由詩 大雪 Copyright 藤原絵理子 2014-02-16 21:18:41
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