女たち
草野春心



  女は戯画のなかのインディアンみたいな出で立ちをして
  紙紐を使って ベッドに男の四肢を括り付けていた
  人工の冷めた光は磨りガラスの窓を白く染め
  取れかけた口紅を不気味に照らしつけ
  女を魔なるもののように見せていた


  その四角い部屋には 大きなピアノが一つ置かれていて
  鍵盤の前には もう一人の女が座っていた
  女には両腕がなかったが 空調からの微風で譜面が捲れると
  音楽が 緩やかに 次の局面へ移っていくのが誰の耳にもわかった
  無論、ベッドの上で岩石のごとき裸体を晒し
  乾いた双眸で天井を見つめる青年の耳にも



  ベッドの横に立っている最後の女は静かだった
  ただ ひっきりなしに煙草を吸い、足元に灰を落としながら
  みずからの形作る細い影が 壁のうえで
  他の女のそれと重なり合うのを見つめていた
  男もまた 影の織りなす踊りのようなものを見つめていたが
  意識をそこに集めようとすると 病のように重い眠気が男をとらえた
  眠りのなかに 女たちはいない
  それでも男の躯は 固く 縛られたままだ




自由詩 女たち Copyright 草野春心 2014-02-11 16:50:40
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