小娘 
木屋 亞万

細長い廊下の突当り
洗面台で顔を洗う
銀十字の蛇口をひねり
白いしぶきを手ですくい
顔にかける

清潔な白いタオルの
やわらかな糸で水をこすり取る
鏡の向こう
自分と目が合った

小さな娘が歩いてくる
鏡越しに小さな体が見える
かなり遠くにいるらしい

前髪で目を隠す
灰色のカッターシャツに腕を通す
ベルトを通したままのズボンを履き
ソールの薄いスニーカーの紐を結ぶ

引き戸を開ければ
明るいだけの
陰湿な昼間が
日常とともにある

電車に乗れば乗客もまばらで
女、子どもと老人ばかりだ
男はどこかで戦って
今頃死んでいるのだろう

道行く女たちが
良い女であるとすれば
年端もいかぬ娘だからか
やがて小は大に裂かれる

物を見る目が濁りすぎて
浮き出た虹彩の島に
ぽっかりと瞳孔の闇
顔には穴が多すぎる

目を閉じれば
駆けてくる小娘
とても慌てているようだ
電車はトンネルに突入し

いつまでも
すれ違い続ける
しか
ない


自由詩 小娘  Copyright 木屋 亞万 2013-09-14 15:05:21
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