Hotaru hotelのほとりで
木屋 亞万

 冷房をきかせた部屋で、少しずつ冷めていくベッドのシーツを撫でながら、吐くように泣いた。体の中の悪いものが外に出たがっていて、こらえきれずに涙になってあふれた
 白い布地に落ちた雫がブラックライトに照らされて、緑色に光っている。腕に落ちた涙も、床にこぼれたものたちも、当たって弾ける瞬間に、パッと緑に光るのだ


目から緑の火が垂れるようで
火垂る

窓の外
橙の街灯
濡れたアスファルト
たまに走り抜ける車のテールランプ

雨が降ってきた。
窓が水滴で塗り上げられて、そのひと粒一粒が、
夜も暗くない街の灯を、吸って吐いてを繰り返す。
水滴に私の涙を混ぜ込んでみたら
時折みどりに明滅していて綺麗

クラゲ
水の母、海の月
なぜ光るのかキラキラと
深海を一人でパレードするように
孤独な人たちは誰だってあの光に憧れる

つめたく暗い街でさえ
一人で光ることができたら
みどりに光ることができたら

安いカクテルみたいな涙だけど今は
見ているだけで力をくれる栄養剤

冷蔵庫の光を顔に浴びる
ちっぽけな私にはこれくらいのスポットライトでちょうどいい
ブラックコーヒーが飲みたいのに、なくて
ふらふらと歩いていく
こころの支えがないときは、ほんとうに足元がおぼつかない

24時間光ってるお店で
安い少量の珈琲を買って、ホテルに戻る

街は明滅する光に満ちていて
こんなにも火垂る
くらくらするほど孤独な街を
漂う光のさびしさ
酔いしれるものもないままで

じりじりと焦げ付いてくる
尿意にしたがいトイレにこもれば
じょぼじょぼと注がれる尿さえ
緑に光り輝いて
私は孤独な病を抱えている
蛍なのだと確信した


自由詩 Hotaru hotelのほとりで Copyright 木屋 亞万 2013-08-14 20:16:01
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