それでも
木屋 亞万

繰り返す毎日
何度も同じところを回り続けるペダル
チェーンでタイヤとつながって
前に進んでいく
毎朝同じ道を行くとしても

繰り返す毎日
いつも同じ時刻の電車に乗って
早足で乗り換えを済ませ
速度を落とさず建物の中
どこまでが線路かわからない

繰り返す毎日
決められた机に座り
昼が来るまでひたすらに
降り注ぐ作業に埋もれていく
日が暮れるまで水揚げされない

繰り返す毎月
口座にお金が振り込まれ
それを三十日かけて
じわじわ食いつぶしていく
底が見えたときの焦燥は空焚きの鍋

繰り返す毎年
盆と暮だけ故郷に帰り
年老いた家族と顔を合わせる
いつもの面々と酒を飲み
繰り返す日々の傷みを知る

繰り返す延々と
繰り返すくりかえす
表と裏を何度もなんども見つめながら
新しいことが少ない日々を
ひっくり返さず受け止める

それでも
開けたまま持ってもらえた扉が
台風が去ったあとの澄んだ空気が
やけに丸い橙の月が
じりじりと焼けていく途中の肉が
猛暑の中で冷房の効いた空間が

それでも
うまく発酵したパンが
微笑みながら差し出されたてのひらが
ぐっと体を押しあてられた温もりが
つま先から入る湯船のお湯が
すれ違いざまの懐かしい香水が

それでも
犬の肉球が
あかんぼうの微笑みが
いとしい人の鼻歌が
ウィンカーとラジオの音楽が
走り終わった汗に吹く風が

それでも
しあわせなのだと
おしえてくれる


自由詩 それでも Copyright 木屋 亞万 2013-09-21 07:33:48
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