私は私に抱かれて眠る
夏美かをる

冷たい布団に潜り込んで
悴んだ体を丸め
膝を抱えて
ゆっくり目を閉じる

呼吸を整え心臓の鼓動に重ねると
間もなく私の意識は解き放たれ
私を形作っている六十兆の細胞の波間を
ゆらゆらと漂い始める

絶え間なく分裂を繰り返す細胞は
その度に熱を放出し
熱が血液に伝わり
血液は心臓によって全身に運ばれる

私の中の脈打つわたつみは
張りめぐらされた朱色の熱線により
常に程よく暖められ
六十兆種の更なる連鎖を育む

どんなに暗く寒い夜でも
私の心臓は動き続け
私の血液は流れ続け
私の細胞は生まれ変わり続ける

ただそれだけの真実があれば
営みは続き 海は波打ち
やがて私の体から
暖かい海流が溢れ出す

冷たい布団に潜り込んで
悴んだ体を丸め
膝を抱えて
ゆっくり目を閉じる

呼吸を整え心臓の鼓動に重ねると
間もなく私の羊水が私を呑み込み
凍えたその魂を浚って
子宮の淵へといざなうだろう


自由詩 私は私に抱かれて眠る Copyright 夏美かをる 2013-02-01 16:24:09
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