その日
夏美かをる

その日
私は独り鉄棒に腰掛けて
夕日を眺めていたいだけだった

鍵を掛けて体の奥に仕舞っていたはずの
シキュウという箱の中に
エイリアンの胎児が
突如侵入してきたみたいで
ただ不快で気持ちが悪くて
吐きそうだった
なのに
「おめでとう」と姉は笑顔で言い
「今日は赤飯炊いて待ってるからね」
と母は呑気に言ったりした
だけど私は家に帰りたくなんかなかった

泣きたい気がしたのに
ちっとも泣けなくて
叫びたい気がしたのに
全く叫べなかった
その日
私は独り鉄棒に腰掛けて
夕日を眺めていたいだけだった

町工場の屋根の上 茜色の空に
いつまでも沈まない真っ赤な夕日を


自由詩 その日 Copyright 夏美かをる 2013-02-07 05:24:16縦
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