霊視体験
アラガイs


霊魂の存在を語る
紛れもない事実としてこんなことを大真面目に話すひとがよくいる
もしもあなた自身が、思わぬ形象(かたち)でこれを体験したとすれば
それを事実としてあなたには受け入れることができるだろうか…
実際「虫の知らせのようなことを何度か認識させられた。子供の頃から母親に似て感が強い方だとは思っていた 。しかし霊の存在を疑いもせず、まるで見たかのように語る人をわたしはこれっぽっちも信じてはいなかった 。」
年が明けて二日、テレビの前で炬燵から動こうとしない母に代わり、餌欲しさにつきまとう猫と一緒に洗濯物を取り込んでいた 。
仏前に線香を供えてから取り込んだ洗濯物を選り分けていると、瞬間、台所の方向から誰かがすぅーと出て行ったのがみえた 。胴まわりから足元まで確かに男の気配だった。「義理の弟か…」もっとも、出て行ったのか、入って行ったのか…今ではよく思い出せない。それを振り返ろうとすればするほど、前後の時間と空間さえわからなくなってくる。

それにしても足音がよく聞こえなかった。わたしはすぐに襖を開いて母に確認をしたが、(さっき来ていたから義理の弟だろう…)一度目を大きく開いた後は、また何事もない様子でテレビを見ながら言った 。
猫好きな妹夫婦の家はすぐ脇にあり、義理の弟は休みの日には早くから餌やりによく来ていた 。その日も早くから来ていたのは、冷蔵庫の中の缶詰めの中身が減っていたのでそれとなくわかっていた 。
(何か忘れ物を取りに来たのだろうか…) しかしあまりにもその気配が小さく感じられて不自然だった。台所の方に行ってみたが、ガラスの引き戸は閉じられていた 。当然誰も居なかった 。すぐに上がり口の縁側を追いかけてみたが靴はなく、うしろ姿も見えなかった 。それよりもまず、その短い時間差を考えると実に解せない 。妹夫婦の玄関口まで30?以上はある
とても奇妙な…(いや、これはただの錯覚かもしれない…)そのときは、何故か深入りしてはいけないのだと、不思議なほどに鈍感で、また冷静な判断力の方が優先していた 。
帰りがけに、戸外の車庫にいる弟を見つけた。それとなく問いかけてみた。予感したとおりあれから母親の家には行っていないと言う 。
では、わたしが見た男の気配とは何だったのだろう…。
…台所へ向かう廊下には、仕事の合間につまみ食いをしにやって来る死んだ兄の姿がいまでも目に焼き付いている。そして同じ年に亡くなった父親の記憶…。
そういえば兄の娘の子も同じようなものを廊下で見たといい。昔、妹が白い得体の知れないものを見たと恐る恐る語ったことを思い出してもいた。横顔を通りすぎたのは、単に幻影ではなかったと確信している。決して錯覚ではないはずだ
あのとき、仏前にはわたしと猫が居て洗濯物を選り分けていた。そして何かを見た。今でもそう確信している。
しかし、奇妙なことに振り返ろとすればするほど、何故だか思い出せない 。
あのとき漠然と通りすぎた気配だけが頭に残り、実際自分が何をしていたのかはっきりと蘇ってこないのは何故だろう…
不思議と恐怖感さえもないのだ 。









散文(批評随筆小説等) 霊視体験 Copyright アラガイs 2012-01-07 07:58:47
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