「虚体
アラガイs

/
あの静けさにはどこぞの野良犬たちも眠れる夜だった 。
誰も覗きはしない冷やかな部屋だから
浮かびあがる「死体」は見なかったことにしよう
駆けつけたときに男が倒れていたのは宿命で、決して運命じゃない
そう思うことで、世の中の善良びとが何人かは救われることになるのならば /
/
これは玉葱をカットする為に研がれたナイフだから
//鮮血は/手のひらに拡がる短夜を告げる/しっとりと薄く濡れた、紫陽花の根元へと流れてゆけばよい 。
)自虐的な意識に目覚めたのか
その後で女の口述は度々翻った 。
すべてを認知していたかのように
努めて冷静な素振りだった 。

第三者の立場から見ても、それが一抹の不安に彩られた虚栄心から顕示欲を示すものなのか
真新しい車で一目惚れの旅に出る
そんな、未知数な期待を余儀なくされた
突然の解放感から滲みでるものなのかは誰にもわからない 。
ただ、わたし以外に別な指紋が発見されてからというもの
それまでの傲慢さは影を潜め、女は狂ったように俯いてばかりで黙秘を続けている
日ごと懐かしさに襲われる耳を棲まわせるように、
架空の部屋にいる
(忘れ去ることはできない、憎しみは何れ蘇るものなのよ)
死体は一体どこに消えたのか
わたしは幾日も問い詰めた 。

もちろん「朝/陽が顔を出せば、その声はいつのまにか雑音に塗り替えられて
何事もなかったような瞑想の一日が始まるわけだが「それもこれも
」昼間「夜と肩を摺らす喧騒の違いから次第〃に内部へと溜まってゆく孤独の影/いや、これはきみ自身の声ではないか」
信じるにはまだ刻が早すぎたこと…それに馬がはしり去る…ここは隔離された最果ての小さな島
深い海と陰鬱な山に囲まれ、もがけばもがくほど小刻みに誓う怨念の姿よ
(誰かが、聞こえている)誰にも聞こえはしない
鍵穴から押し入れを開くと紫陽花の薄い花で埋まり
有機物は自らその存在を確かめる
「あの死体は確かに消えた/言葉を添えて……消えてしまったのだ」
そしてこれからも、誰かがそう問い続けるにちがいない 。









自由詩 「虚体 Copyright アラガイs 2011-11-30 04:00:09
notebook Home 戻る  過去 未来