荒野の白袴
木屋 亞万

この世の全てに
意味があるとして
それが何の救いとなろう

泣くことが最初の呼吸であるならば
そこには一滴の悲しみもなかった

暇に溺れ
退屈過ぎて
息ができなくなった時に
泣きたくなるのは
息がしたいからだ

孤独は死に至る病だが
病は
死への階段で
死へと飛び降りる必要を失くしてしまう迂回路
それもまた容易い道ではない

どのような死も
心臓の停止とともに完遂する
心不全
心は最後まで不完全なまま
肉体から揮発していく

物心のつくとき
心が産声をあげるのは
恋をした朝
幾度となく予兆を味わい
これが恋かという衝撃に堪えながら
いずれも余震でしかなかったと
後々思い返すこととなる

感情は少しずつまとまって波を起こし
淡白で透明な水は
徐々に塩気を増していく
濁っては澄み
温まっては冷め
矛盾だらけの海になる

走るのは
堂々と立ち止まるため
疲れるのは
安らかに眠るため
生きるのは
なるべく遠くで朽ちるため

意味を求めることが救いになるならば
好きなだけそうすれば良い

途方も無く重なりあう絵柄を好むか
味気ない無地の着物を好むか
どちらを選んでも誰にも迷惑はかかるまい

できるなら放物線のような
ゆるやかな人生が良い

草むらに残された白球が
風雨にさらされて
割れていくように

私の骨の持ち主は
とうの昔に
心のことなど
忘れてしまっている


自由詩 荒野の白袴 Copyright 木屋 亞万 2011-11-04 14:41:40
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