ちいさな
木屋 亞万

草木も私も眠る夜に
横たわるこの身体の中で
動き出す小さな私

腰の辺りにある
大きな貝殻が開いた形をした腸骨で
目を覚ますのは
手の平サイズの女の子

彼女はお腹に住む
私の夢の主人公

身体の空洞の中を
胸のほうへとかけていく

腰から頭のほうへと続く背骨の橋は
手すりがまったくついてない
彼女はそんなことなど気にもせず走る

骨の橋を叩いて渡らなかったせいか
背骨が割り箸のように
真っ二つに割れてしまっても
彼女は焦ることもなく
その割れ目の中へ落ちていく

 落 ち  て    い      く

とぷん と

寝具の海
学校の汚れたプールの底のような青い海
くすんだ水色で
あまり美しくはない

それが液体であること以外
何もわからない
さっきまで乾いたところにいたことに
ようやく気付いたくらいだ


しずんでいく
とてもしずかだ


ぜんたいがうっすらとあかるい
ひかりがほうわしている


ふっ と

からだが浮かぶ気配がして

水をかく手をとめると
おしりの辺りから
やわらかい手のひらで
おしあげられるように
浮かんでいく

あしの力をぬいて
やわらかい安楽いすにすわるように
足をふんわりひらく

いつのまにか口があいたままになるくらい
ここちよく浮かんでいく

目の前には
瞳に砂をかけられたような
満天の星空が広がっている

小さな粒で空が溢れそうだ
星が飽和している
ぐちゃぐちゃと法則性もなく並ぶ
煌く虫のように呼吸のたびに瞬いている

星を監視するのではなくて
もっと安らかに
緊張感などしまったままで
ただただ空を眺めていられたらいい
ちいさな女の子はそのような歌を口ずさみながら
私の身体へ帰ってくる



新聞配達のバイクの息継ぎの音が聞こえて
私の顔に太陽の指先の光が届き始める

ちいさな女の子は腸骨に戻ると
膨らんだ膀胱に
ぶいんぶいんと二度ほどタックルをして
眠りについた


私はしぶしぶ身体を起こして
あたたかい布団から抜け出し
のそのそとトイレに向かう

今日もまた騒々しい一日が始まるのだ


自由詩 ちいさな Copyright 木屋 亞万 2011-11-06 02:02:47
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