あかるいみらい
木屋 亞万

未来はきっと明るいと信じている
明日がどこから来るとしても
太陽はきっと東から
音もなく昇ってくる
まだ眠っている人を起こさないように
少しずつその光を強めて
朝を告げる

過去はとても良いにおいがする
過ぎ去ったものたちを悼む線香の煙が
立ち込める畳に寝転び
蘇る記憶の中でこの身体は
まだ成長の最中にあって
世界は今の倍くらいは大きかった

薄暗い夜からぼんやり眺めた
明日はいつだって明るくて
朝は
どれだけ曇っていても
雨に濡れていても
変わらぬ光を世界に届ける

夜は朝を明るくするために
夜明け前を容赦なく闇に埋める
闇が怖くて目を閉じているものの多くは
当たり前のように眠っている

なつかしい夏の日の
あの人気のない早朝の街を歩いて
学校までラジオ体操に行ったことを
今でもたまに思い出す
生まれたての朝の光はまだ
遠慮がちに空の端を明らめて
空の水色はいつも以上に薄いままだった

口笛を吹いても
夜のように不気味な響き方はしない
まだ硬さが残る空気は
空とつながりきれずに
静かに震えているだけだ
犬がどこかで吠えながら
鶏の気配を探している
新聞配達は仕事を終えて
そっと帰路についている

未来はきっと明るい
そう信じている
今を包む暗闇が暗ければ暗いほどに
朝は明るく感じられる
夜明けを告げる太陽はきっと
何も言わずにやってくる

夢や希望や楽しみや
かなしみや喜びや怒りとは
まったく関係のない光
ただ明るいだけの朝が
ただ輝くだけの太陽が
今日も昇ってくることが
世界をどれだけ救うだろう

朝とともに
いつのまにか
春が来て
新しい緑が
芽吹いていく
秋に失われたものが
新たな命で補われていく

そのすべての営みが
かなしく
うれしく
はらだたしく
たのしい


自由詩 あかるいみらい Copyright 木屋 亞万 2011-04-27 01:44:04
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