有視界飛行
木屋 亞万

初めて空を飛んだ日
私に帰る場所はなかった
指示をくれる人もいなければ
計器も灯台もなかった

頼れるのは私だけ
飛行機が
機械の身体になって
両腕よりも遥かに長い翼で
私を空へと運んでくれた

進路に雲はほとんどなく
太陽がとてもまぶしかった
自分の視界の遥か下まで
空が勢力を伸ばしてきて
飛んでいることを実感する

働きアリよりも遥かに小さい
ミジンコのような人間たちは
私のことを指差しているだろうか
鳥になろうとした人間の
天使のように自由な飛行を
ちゃんと眺めているだろうか

厳しい風が頬を打つ
見慣れない客への手荒な歓迎
風防はまだ凶暴な
風に太刀打ちできていない
気温は肌を極細の針で刺すようにつめたい
それでも太陽の陽射しが地上よりも激しいのは
少しでも太陽に近づいた証拠なのかもしれない

このまま地上に降りずにずっと
空を飛んでいられたら
鳥のように風に乗って
高度を保ち続けられたら

 私はもう鳥になってしまいたい

このまま海を飛び越えて
自由に世界を飛び回ることさえ
人間には難しい世の中なのだ

 もしも本当に鳥になれたなら

人間である私には
夢のまた夢ではあるけれど

帰る場所もなく
私の着陸のために
用意された場所もない
誰も待ってはいないのに
私は地上へ降りていく

また来るよ、空へ
何度でも何度でも
いつか鳥になる日まで

私が帰ってくる場所は
空以外にはないのだからね


自由詩 有視界飛行 Copyright 木屋 亞万 2011-04-28 01:53:07
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