草食人間は太陽の夢を見る
木屋 亞万

恋人が欲しい
自分みたいな人でも
平気で手をつないで
町を歩いてくれるような
恋人が欲しい

さびしいと言えば
ただ心配そうな瞳で
こちらを見つめてくれる人がいい
やさしい言葉を使うのではなくて
その目が自分を見つめていれば
それで良いと思えるような
そんな恋人が欲しい

寝る前におやすみと言って
朝起きたらおはようと言う
いってらっしゃい、いってきます
ただいま、おかえり
二人揃っていただきます
ごちそうさまでした、おいしかったね
そんなあいさつを交わしたい

さよならって言うのが嫌で
またね、を別れのあいさつにしたりして

電車の窓から風景を見ていても
月がぼんやり綺麗でも
吐く息がぼわっと白くても
恋人のことが頭をよぎってしまう
そんな恋がしたい

ドキドキするのは最初のうちだけで
そのうちマンネリしてくるよ、とか言いながら
イライラしたり、ケンカしたり
罵ったり、不満をぶつけたり
ひどいことを言って、後悔したり
素直になれず、謝れなかったり
そんなベタなもので構わない

一人でもいいのだ
風通しが良いし
身軽だし
でも一人ぼっちだと
恋はできない

想像を膨らませれば
寂しさは紛れるけれど
言葉を吐けば
心は落ち着くけれど
詩は恋人にはなってくれない

春が来たら街に初々しい恋人たちが増える
夏が来たら海に燃えるようなカップルが湧く
秋が来たら野山に赤々とした男女が溢れる
冬が来たら建物に寄り添う二人の影が見える

恋人が欲しい
誰でも良い訳ではない
でも誰もいないのだ
人ごみの中で一人であることほど
劣等感を得るものはない


自由詩 草食人間は太陽の夢を見る Copyright 木屋 亞万 2011-04-21 02:39:54
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