さみしいお昼
木屋 亞万

雲ひとつない空
地上ですら風が強い
空ではきっと誰も立っていられない

日陰の空気は金属のつめたさで
無防備になり始めた肌を冷やす
落ちぶれた冬の狂いかけた残酷

昼休みに弁当を
窓に向かって食べる
ひとり
ガラスは温かい陽射しだけを通す
窓が冬から守ってくれる

卵焼きにミートボール
唐揚げとプチトマト
ふりかけはのりたま
弁当の匂いはいつも
心をほっと和ませる

箸を入れると冷たいご飯も
汁にふやかされた唐揚げも
割れたプチトマトも
小さい頃からずっとごちそう

窓のガラスが風に押され
カタカタと枠が揺れる
陽射しがふっと途絶えて
空を見上げると
イワシの群れが
腹をギラギラさせながら
太陽をさえぎるように泳いでいる

あ、
と思って見ていたら
イワシの群れの後ろから
大きなクジラがやってきて
大口開けてイワシを食べた
窓はカタカタ揺れている

クジラの口が閉じるたび
イワシが散り散りになって
地鳴りのような風が吹く

ひとしきりイワシが食われ
クジラが去ると
元の陽射しが戻ってきた
何事もなかったように私は
弁当の続きを食べる

雲ひとつない空
あのイワシはきっと
クジラに追われながら
風に乗って海からきた

あの銀色の腹に触れば
春の空気のようにつめたい
食べればさみしい味がする

クジラがお腹に溜めていく
何匹分ものさみしさが
私のものより多いから
今日のお昼もひとりきり
クジラのように豪快に飯を頬張る
うん、だいじょうぶ


自由詩 さみしいお昼 Copyright 木屋 亞万 2011-04-05 00:18:47
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