木屋 亞万

目の前で尻が揺れている
私はそれを追いかけている
尻は太股の動きに合わせて揺れる
太股は歩くための前後運動をし
そのたび尻の肉はわずかに上下する

尻の輪郭の弧の一部分が
プリンと持ち上がる
それは時計で言えば
十時十分か一時五十分の辺りで
柔らかさの高まるところ

尻から目を逸らせば
その先に尻とは逆に揺れる頭
細長い後ろ頭の
十時十分の位置に
ピンとかわいい耳が生えている

その頭が見つめる先に
また尻がある
それにも頭があって
尻も頭も十時十分のやわらかさ
まるで合わせ鏡のように
尻を追いかけ続けている

本当の合わせ鏡なら
反転した顔が目の前にあるはずで
この状況は一体どういうことなのか

追いかけている尻が追いかける尻もまた
尻を追いかけていて
尻が尻を追い尻を尻が尻で尻の尻だ
尻尻尻尻尻尻戸尻尻尻尻尻尻尻九尻
ただ歩いている
前の尻の速度に合わせて

連なるように追いかけている尻の
すべてが実は私自身であるかもしれない
私はずっと私を追いかけているのだ
私の尻を追いかけている

いつか空き地で見た
自分の尻尾を追いかけて
ぐるぐる回り続ける犬のように
自分の尻に追いかけている

追いかけているのが自分の尻なら
そこまで必死になって
追いかける必要もないかもしれない
そう思って尻から視線を外す
ふと見上げた夜空から
降り注ぐ一億の尻


自由詩Copyright 木屋 亞万 2011-04-03 00:42:02
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