リライト
木屋 亞万

黒鉛を紙にこすり付ける
それをゴムで消し落とす
ひたすらその作業を繰り返す
紙は少しずつ擦り切れる

真っ白なゴムと黒鉛と紙を擦り合わせ、汚れたゴムの屑にする
紙には言葉の溝が枯れた川のようにうっすらと残る

消せるもので書いている間はいつまでたっても完成しない
ボールペンに持ち替えて書き始める
今度は紙が何枚も丸められて屑カゴへ行く

もう何も伝えられないかもしれない
どれだけ書き直しても言葉は心を包めない
この心を柔らかな風呂敷で包んで、届けなければならない
名もなき私から、名を知らぬあなたに

コンピューターを立ち上げて文書を打ち込む
BACK SPACEとENTERのせめぎ合い
まとまった文章を、ドラッグの黒い影がごっそり消し去る
そこにはリライトの痕跡すら残らない

完成してから印刷すれば
真新しい紙に判を押したように言葉が並ぶ
そこには私という存在の匂いは
ほとんど消えてしまっている

結局何を書きたかったのか
黒鉛をゴムを紙をICチップをプラスチックを金属を
そして電力と視力と知性と時間を浪費して
私は何をすることができたのか

私は心を書きたかった
心を絵で描くことができない私は
言葉でならそれに近いものが書ける予感があった

私が書いた文章を
誰もが読まずに食べるとしても
その文章は良いにおいをしていて欲しい

そのために今日も
黒鉛を紙に擦り付ける
指先でプラスチックのボタンを叩く
一人静かに目を閉じる
ふさわしい言葉が何なのか、自分に問いかけ続ける

文章を書くことは私の宗教である
言葉をつむぐことは私にとっての祈りである
届く届かざるに関わらず私はそれを繰り返す
それが正しい
今の私にはそれだけが正しい


自由詩 リライト Copyright 木屋 亞万 2011-04-02 01:05:42
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