明け方のクオリア
高梁サトル


真夜中の森でひとり
花を散らす戸惑いのない指
(中心にある雌しべ)(囲むようにある雄しべ)
(覆う花弁)(支える萼)(茎)(光合成する葉)
すべてをばらばらに並べて
花のすべてをわかった気になる

科学者や物理学者たちが
無邪気に心躍らせた還元という森で
群れになって眠る獣を横目に
もの言わぬやさしい花を
手折っては散らしながら
ときどき出会う人の表情を見て
挨拶がてらに神経の数式の話をする

理解とは
不安から逃避する
もっとも賢明で消極的な方法であるということを
別の意識の記号で表現することが出来たなら
所々欠落した信号も
察し合い距離を保ち
寄り添うことができるのかもしれない
愛というまじわり方を知らずとも
同じ方向へ向かって生きることができる
魚の習性を真似て

昨日の記憶を
まっしろに塗り変える明け方
瞼を開いた瞬間飛び込んでくるセカイに
奴隷のように付き従う前に
抵抗する
よしんばそこに
わたしなりの意味を見つけられたとして
さがから逃れることができない存在の
悪足掻きにしかならないとしても

それでいいと
納得し尽きるまで
彷徨い続ける
この森を


自由詩 明け方のクオリア Copyright 高梁サトル 2011-01-25 22:05:04
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