雪女になる
千月 話子

冷たい水で顔を洗うの
指先に赤く血の色滲んで

朝に凍り付く体
包んでも 包んでも
冷たく表層になるばかり

誰か 誰か
隣で眠ってはくれませんか
心安らかな人よ



無音のはずの まばたきが
キシキシと軋むなんて
どうかしてる 白々しい朝

隣で眠る人よ
あなたの羽毛の下は
春の柔らかい日差しの中で
浮遊する小鳥の白い綿毛に
満ちて 満ち足りて
暖かに微笑んでいるのですね

もう だいぶ霜の降りた
私の白い指先で
上気した その頬に触れたい

今なら まだ
あなたが粉々に散って 消えて
見えなくなってしまっても
また新しい お人を
眠らせてしまえばいいことなのに
関節がギシギシと 
意のままの意思さえ凍らせて
動けないのです



長い髪から はらはら と
雪が零れる もう抗えない朝

隣で眠る愛する人の手を取って
最後の温もりを分け与えてもらうの

繋いだ掌に流れる血の色は 青
冷たい女に沸き立つ発熱を
奪われないように見せかけて
去って行った男の手は
本当に冷たくて あっけなくて
寂しいばかり


生温いお湯に浸かって
温かいミルクを飲んで
首まで寝床に入っても
心が凍るような雪山

白く冷たい世界から
私を救ってくれませんか



隣で眠る私の愛する人よ
キラキラ光る息に気がついて
震える この体を引き寄せて
”ぎゆ” と抱きしめてくれたなら
私は この冬ようやく
雪女にならずに済むのです


もう私 雪女にはなりたくないの、、、



自由詩 雪女になる Copyright 千月 話子 2004-10-30 16:28:38
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