檸檬少年と優しい涙
千月 話子

檸檬の木の下
鈴なりの黄色
緑の葉陰から落下して
ジューシーフルーツ

味わうには酸っぱ過ぎて
口角でしかめ面 する



突風吹いて 気まぐれにつむじ風
旋回して搾取する
自動ジューサー

受け皿も無く 服はずぶ濡れ
白いシャツは薄黄緑に
少し得した染色代だと思えばいいこと



毎日毎日 啓示のように
少年の上にだけ降る
レモン水の 雨、雨

一ヶ月もしたら
全身が輝くように漂白される
羨ましい 肌
唾液腺を刺激する
爽やかな消臭剤を身に纏い
もう誰一人交われないと
落ちる雨を見つめながら

痛いのか 悲しいのか
解らない 切ない
涙を流しても
傘を突き破る酸性雨の周りでは
愛する人さえ見守るだけで・・・



檸檬の木の下
色あせる葉陰に
檸檬少年
黄色い実は取り入れられて
降り続いた雨も
今は 夏の国へ行ってしまった


高台の住処に風が吹けば
遠い街の汚れた空気を一掃してくれると
喜ぶ 人々

茶葉工場の工場長が
サングラスとマスク越しに
暖かい握手をすれば
少し離れた 優しい色の屋根の下で
仄かな酸味薫る 喫茶店を開く
いつでも新鮮な檸檬少年

これでもう寂しくない これでもう怖くない

「あなたと僕が微笑む間に
どんなに距離があったとしても
夏の視覚、夏の香り
仄かに感じて幸せな気持ちになるよ。」
と 言葉にできるから



壊れて灯りの点かない灯台に
檸檬少年
今は冬の荒波
揺れる船を導いている

夏の光りに似た眩しい腕を振りながら
迷える船人の心を鎮める
レモンスカッシュの香りを放ち続けて・・・


世界中の人々に愛されて
嬉しいと 涙を流す檸檬少年
溢れて零れ落ちる水は
優しい 酸味
紅茶に垂らした幸福は
ゆらゆら溶ける 黄金色



自由詩 檸檬少年と優しい涙 Copyright 千月 話子 2004-10-23 17:37:20
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