ねこじゃらしの波
A道化



 同じ筋に住んでいた同級生のM.Y.ちゃんの家が燃えたのは数年前、私たちが大人になってからのことで、Yちゃんの父親が亡くなって半年も経たないうちのことだった。幸い家は留守中でYちゃんの家族は皆無事だったが、火葬されてから再び火に包まれたYちゃんの父親の骨がちゃんと見つかったかどうか、なんて、もちろん尋ねられる筈もなかった。
 あれから数年が経ちYちゃん一家は引っ越して、それ以来そこは更地のままだった。

 先日のこと。バス停に向かって歩いていてそこを通り過ぎる際になんとなく見遣り、あ、と思う。
 敷地いっぱい、ねこじゃらしの原っぱになっているのだ。思わず立ち止まる。風の形に揺れるねこじゃらしの波を受けて、説明しがたい揺れが心に起こる。ああ、
 ああ、Yちゃん、Yちゃん、あなたの家のあったところがねこじゃらしの原っぱになっています、
 なんて、もちろん彼女に言うはずもない。Yちゃんはきっと私の意図もどう反応してよいのかもわからずに困惑するだろう。言ったものの私もまた困惑するだろう。だから何?ということが私にもわからないのだ。でも、と思う、私はこのことを書かずにはいられないだろう、それ以外にどうすることもできないのだから、私はこのことを書くだろう、
 揺れるねこじゃらしに揺さぶられながら、私はそれを知っていた。



散文(批評随筆小説等) ねこじゃらしの波 Copyright A道化 2010-08-10 01:37:01
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