もう一度名前を呼ぶ声が聞きたくて
虹村 凌

もう一度名前を呼ぶ声が聞きたくて
もう一度「愛している」が聞きたくて
生きているのだとしたら
とんだお笑い種だと吐き捨てて
寂しそうな顔をして煙草に火をつける

あれから何度も季節を越えて
あれから何度か腹の上を通り過ぎたけれど
納得がいった事なんか一度も無かったよ
そう気持ち悪がるなよ
本当なんだ
鼻からティッシュを出すモアイ像をベッドサイドテーブルに乗せて
遮光カーテンの向こう側で朝日に揺られて魚になろうよ

もう一度名前を呼ぶ声が聞きたくて
もう一度「愛してる」が聞きたくて
もう一度その体温に触れたくて

気持ち悪ぃんだよ!
絶え間なく頭の中で虫は叫び続ける
強張った腕と指先は空を引き裂く事も無く
ただ空を切り裏返る
割れ関せずとそっぽを向きながら監視する目の中
叩き付ける拳を持たず
奥歯を噛み締める
てめぇら全員燃えてなくなれ!
絶え間なく頭の中で虫は叫び続ける

もう一度抱きしめさせておくれ
気持ち悪ぃんだよ!
もう一度キスさせておくれ
気持ち悪ぃんだよ!
次はセックスさせておくれ
気持ち悪ぃんだよ!
嫌いかい?嫌いなんだね?
気持ち悪ぃんだよ!
終わりみんな終わりさ
気持ち悪ぃんだよ!
全部独りよがりさ
気持ち悪ぃんだよ!

君の知らない俺の景色も
俺の知らない君の景色も
髪の様に細いコネクションですらない
繋げるのは二つの素子と幾つかの電波塔で
画面に浮かぶ1と0が紙に滲む衝動と重なって
弾けて飛んで届けばいいのに

気持ち悪ぃんだよ!

「全部独りよがりさ」


自由詩 もう一度名前を呼ぶ声が聞きたくて Copyright 虹村 凌 2010-04-09 20:00:52
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