名前を知りません(春について3)
クローバー

名前を知りません、
ごめんなさい、と言います。
花を花と言います。
しかし、君には、
きっと、それなりの名があるのでしょう。
僕は、君を表せません。
散歩をしていると、思うのです。
なんて少ない言葉で生きているのかと
紫の小さい奴も、
白のトゲのある奴も、
花壇に植わったあいつでさえ花、
としか言えない。

おいでダンデライオン、
君くらいだよ呼ぶことができるのは
「それは集団名であって、個人名ではない」
ダンデライオンが言う。
ギザギザした葉っぱで言う。
花占いには適さない、花びらで言う。
それじゃあ、なんて名前なんだ、
と言おうと思ったけれど
すべてに名を尋ねていたら、季節が変わるだろう。
ライオン、それじゃ、
君は、あの紫の奴や白い奴を知っているのかい
「もちろん。」
教えておくれよ。
「花、だよ、白も紫も。
 で、見たままの形をしている。以上。」
名前を知りたいんだよ。
「名前はまだ無い。」
我が輩は猫である、か。
「猫ではない、花だ。」
知っている、そんなこと。
「知っているならそれでいいじゃないか。」

そうかもしれない。
名前なんか無くても、咲いている。
僕は、呼べない
君たちは、呼ばれない
そして、僕を呼ぶ声がする。
花ではない、悲しみでもない、
名前のないものが、そこここに。
生まれているような、気配が、充満する。
名前を付けてしまえば、
一つになってしまうような
無数の気配
悲しいことがうれしくて、
たのしいことが苦しい。
愛想笑いをして
ごめんなさい、と言って
君を表せない、と言って
申し訳ないのに。


自由詩 名前を知りません(春について3) Copyright クローバー 2010-03-31 23:09:20
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