猫の目
クローバー

少年は、チョークを手に持っている
軽石かもしれない

壁に描くのはいつも、目。
みゃぁ、と鳴く、猫の、みゃぁ、と鳴かない部分。

少年は、いつも日が暮れる前に帰る

煉瓦の、壁には、破れかかったポスターがある。
描かれているのは
白くふわふわとした衣装に身を包んだ少女
少年は、舞台に立つ少女に微笑む
ポスターに恋をしているのかもしれない。

壁に、いつものように猫の目を描いている
毎日描いていたので、少年にも匹数はわからないようだ。
ただ、雨で命を落とした数よりはずっと少ない。

ある日、ポスターが無くなっていた。
少年は、ポスターがあったところにも目を描いた。
書き直した跡が、たくさん残っていた。
猫ではない目を描いたのは、はじめてだったのだろう。
もうすぐ日が暮れる。

猫は、鳴かない。

壁の向こうから少女は少年を見つめている。


自由詩 猫の目 Copyright クローバー 2010-03-07 23:35:40
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