逃飛行
木屋 亞万

キンと寒い冬に
凍りついてしまった僕ら
日差しが柔らかくなって
何もかもほぐれてしまう前に
北へ逃げよう

太陽が東から昇ってきたら
銀色の瞳は火傷してしまう
西へ西へと逃げ続ける
つめたい夜も、蒸し暑い夜も
君のフレアスカートはずっと濡れている

僕のシルクハットから
鳩がずっと出たがっているから
君に改めて挨拶をしよう
眼鏡をはずすだけで
こんなにも一人ぼっちになる世界で
言葉を投げ合うことはとても大切さ

性的機械の稼働する音がする
今すぐ耳を塞いで逃げ出さないと
僕らの欲望まで巻き込まれてしまう
カッターシャツのボタンが一つ
またひとつと地面に落ちる
振り返れば小さく光る僕らの足跡

僕らはずっと真夜中を旅する
夜から夜へ、眠りの街から眠らぬ街へ
逃げるように、追いかけるように
君の黒髪が夜空を縛る帯のように風に流され
僕の吐く息は細長い雲になって
すぐに消えてしまう

眼に星が入ったときは
鼻にキスをすれば治るさ
もしもさみしくなったら
思いきり雨を降らせるといい
僕らはいつでも僕らのままさ

だからそんなにも
つぶらなおでこで僕を見つめないでおくれ
そして全開の鎖骨をしまっておくれ
僕に背中を向けたところで
お尻のラインがぼんやりと
夜空に浮かんでしまっているよ

昨夜の夢のライオンが
目を覚ましてからも
消えないままでいるので僕ら
月へでも飛んで行こうかと思っている


自由詩 逃飛行 Copyright 木屋 亞万 2010-03-16 01:34:13
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