Like a rolling story
木屋 亞万

マイタケはビラビラと
エリンギは太くて長い
シメジから精子の匂い
すべて炙ってしまおう
煙はもくもくと天まで
汁が垂れては蒸発する

腐りかけた鶏肉の蛋白
腐臭の向こうに精液臭
この鼻は精液に敏感で
焼けば忘れてしまうが
包丁をいれる時にだけ
指が肉に触れることが
苦痛でしかたないのだ

この世のありとあらゆる生物が
殖えることによって現在まで
生き延びているのだとしたら
それはとても尊いことである
しかし同時にとても醜いことでもある
生への執着を捨ててしまった生物は
もはやただの物であるのだが
私は物のほうが生物よりはるかに美しいと思うのだ

生命が輝くのは生と死の瞬間だけだ
そしてそのどちらの状態にある生命も弱く、醜い
それでいて
ありとあらゆるものを突き動かす力に満ちている
周囲のものを、
自分自身でさえも、
その弱くて醜い生命をどうにかしてあげたくなる

それに比べて
物は平均的である
冷静でいて単調でいて強固である

生物の生と死の瞬間がともに美しいのは
それが物から生物へ、生物から物への移行時期だからだ
物の状態になった元・生物(あるいは前・生物)の移ろいの加速度は
生物であった時の比ではない
それは実に無駄がなく、何の疎通もなく完璧に行われる

生物というのは実に不器用で悲しく寂しいものである
そしてそれらの負の感情が
当然のように喜びと楽しみを引き起こす
どちらもほんの束の間のことであり、
限りなく永遠に近い一瞬である

卑猥な植物も
腐敗した肉も
すべて元・生物で
現・生物によって食べられて
現・生物が殖えるための力となる
それはとても醜く苦しいことの連続であるが
いずれは美しいときを迎える
もしもそれが物語のようであったならば、ね


自由詩 Like a rolling story Copyright 木屋 亞万 2010-02-17 01:38:46
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