エレベーター・ミュージック
クローバー

僕らはちょうどこのあたりで生涯初のキスをした。
ムジカ、声がする、気がする
半透明な△を押す、あのときのように
村の集会所のまんなかで、
チン、と音がする
扉が開いたのだろう。

ムジカ
神に捧げるために、音楽が生まれたという
ミュージックのために祈ろう
隠れた信仰のために、
手鞠歌のように
そして、
子守歌のように。
人だけでは、聞こえない、赦しのために。

上へ向かいます
ムジカ、の声がする、どうぞムジカ。
1・2・3・階数表示は点滅を続ける
そう言えば、私たちはあれから
と、ムジカが語り
そうだったのか、と
初めて聞くふりをして僕が答えた
13・14・15・表示は点滅したまま
ムジカ、君、しかし、体はどうしたの?
ムジカは、少し黙ると、
いくら君でも教えられないかな。
と、答えた
覚えているか、あの子守歌。
もちろん。
ムジカは声だけで答える
そして歌いはじめる

こんな狭いところで音楽をささやく
こんな狭いところで赦しをささやく

ミュージックのために祈ろう
いっとき、瞼を閉じる

さて、ここは。
何階まで来たのだろう
表示を見ようとしたのだが数字が見えない、
とりあえず降りよう、と
ボタンを押そうとした指が
もう、自分の指すら、見えなくなっていた。


自由詩 エレベーター・ミュージック Copyright クローバー 2010-01-28 21:02:26
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