ほうぼう
木屋 亞万

竹の生い茂る中を歩く
辺りは暗い
竹の脇に燈籠がともる
燈籠の火が揺れる
火の玉のように泳ぐ
竹の葉が騒ぐ
そういえばここは海の底

麦畑に迷い込む
誰も捕まえに来ない
立ち止まって空を見上げる
見上げなくとも夜空に包み込まれている
のに上を向く
麦の粒が大きい
その小さな楕円形の粒の中で
2つの目玉がぐるぐる泳ぐ
もうすぐ麦が孵化していく
麦畑は当たり前のように出口を用意する

魚が突き当たりに立っている
ずっとこちらを見ている
足を止める気にはならず
少しずつ近づいていく
魚が青緑色の足を広げる
この魚こそが海の蛙だと思う
海蛙はじっとこちらを見ている
いつの間にか立ち止まっている私に
のしのしと歩み寄ってくる
目と目で接吻できる距離に来て
海の蛙はホウボウと鳴いた
麦の根を引き抜くような追い風が吹いて
竹のじゃれあう声がここまで届いてきた
気がつけば目の前の魚は背を向けている
その背中は鮮血のように赤かった
何匹もの黒い赤ん坊が
去り行く背中を追いかけていく

ほうぼう探し回ったけれど誰も私を捕まえには来ない


自由詩 ほうぼう Copyright 木屋 亞万 2010-01-23 01:55:50
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