アッキー海を行く
鵜飼千代子

    九十九里の遠浅を

    アッキーが走る
    アッキーが走る

    スニークプレビューの
    境界線を
    アッキーが走る

    波に対う             /ムカう
    座る
    逃げる
    アッキーが走る

    戻る波を追いかける
    蛤の赤ちゃん 慌てて拾う
    負けちゃあいない蛤も
    身体垂直に 潜る潜る


   「アッキー 大きい波が来たよ」


一瞬 

    飲まれる

         三メートル
   
               追いつかない
  
                      あし 取られる


    波間から 顔
    眼 宙を
    頬膨らませ 口結び
    ごろん ごろんと

    抱き上げ 抱きしめ


   「ごめんね 間に合わなくて」

   「アッキーが間違った
    ごろんとしたから
    大丈夫だよ ちょっとだけ
    お水 飲んだけど」


    アッキーが走る
    アッキーが走る  


   「アッキー また大きい波が来たよ」


    逃げる逃げる 今度は早い
    命懸けだ 真剣だ
    スプリンターになるためには
    波との追いかけっこが
    良いらしい

    アッキーが走る
    アッキーが走る

    笑う 叫ぶ 寝転ぶ

    波が洗った砂も 海も
    空を映し 青 藍 蒼

    アッキーが走る
    アッキーが走る

    きらり 飛沫が光る




    1997.08.25
    初出 NIFTY SERVE 旧 FPOEM
    詩集 ブルーウォーター 所収


自由詩 アッキー海を行く Copyright 鵜飼千代子 2010-01-19 16:41:45
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