ペンション アントルメ
鵜飼千代子

          伊豆急 城が崎海岸駅の裏手に
          白いペンションがある

          庭に大きく茂る木
          それが やまももの木だ
          長寿の木の実 やまももは
          かつて その実を取るために
          命を落としたものもあるという

          柿よりもろい その枝に
          幾人の夢が とまったのだろうか

          見るからに 登り易い木なのだ
          昼寝などしたら 気持ちが良いであろうに

          今では さほど珍しい食物でもなく
          気にかけるものも あまりない

          住人は 拾い集めて
          ジャムをつくる

          奥さんはほがらかに 話をしながら


          スクランブルエッグの この味は
          まさか この場所で味わえるとは思わなかった

          オーナーは 元ホテルのシェフだという


          窓から 海が光る
          発光した海を受け 雲が行く          


          レーズンのマフィンをほおばりながら
          わたしは海に 降りていく
  


          1997.08.19
          初出 FPOEM(だと思う。もしかしたらVERSE)
 


自由詩 ペンション アントルメ Copyright 鵜飼千代子 2010-01-18 22:11:43
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