アリス
みい

鏡にそっと、右手を、ついて
じいと覗き込む、あたしの顔
左、右、あたしにふたつ、目、目
やさしいことがたくさんつまった左目が
いけないことを見下ろして、目、目
それよりもほんの少しだけ下にある右目が
よく見ると少しすれている、目、目
それだってあたしひとりでくくられていて
何故だかわからないままにしゅんとして
お母さん、ごめんなさい
と言うと
かすんでしまって、左も右ももう ないの

ばちん、ばちん
頭痛のする朝に
まぶたと歯ブラシがけんかしていた
その隙に
めがねのうさぎが ひょろり
排水溝の奥へ逃げ込もうとしていた
びっくりして
ひょい、と耳をつまむと
時計ならあげるから離して、と
さっさか逃げていった
時計を覗き込むと短針しかない

ばちん、ばちん
頭を押さえると同時に
髪からぽろり銀の針
大きなホチキスのしん
とめそこなったホチキスのしん
かみさまがきっと
いくらでも時間を止めて
ばちん、ばちん
あたしにとめたかったものはなんだったんだろう

めがねのうさぎは有名などろぼう
置いていったのはかみさまの時計
あたし、どうしても長針になりたくて
排水溝にわざとおこっちてちいさくなるの

ぼろり
穴に転げ落ちて
あたしちっちゃなアリス

いつのまにか入っていた
ちいさな瓶も
壊せないで流される
あたししょうもないアリス

やっと時計の長針になれたら
今度は兵隊にさらわれて
一晩中ポーカー

フルハウス!
フラッシュ!

すらりとストレートをだすと、
ばちん、ばちん
視界が瞬きするたびにちがう銀色

ああ、あたしいちぬけた

だって瓶を
ぽん、と開けたのも
ひとりでしかないあたし、アリス

彼が、ふっとあたしをかきあげた
ほんとうは髪をかきあげていた
こつ、と床にまた 銀色
今度は見ないふりをして
彼の髪を流れにさからってかいた

はなすくちびる
からまわるぎん
なまえがないの
いまだけがほら
うろたえるはり
ささくれにきす
ぎろちんのゆめ

青い服はどこを探しても見つからなかった
めがねのうさぎのことはもうどうでもよかった
その理由として5月病を選んでしまうの、アリス





自由詩 アリス Copyright みい 2004-09-23 20:18:03
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