帰りたくない
木屋 亞万

届かない
目にするものすべてが

もう駄目かもしれない
明日は
いつ来るのだったか
ずっと待っているのだが
入れ違いになってしまったのかもしれない

目の前にいるのに
行き過ぎていく
まるで
鈍行に見放された駅

雨はしばらく降っていない
濡れてもいないのに
身体が冷える
触るとつめたい肌に
手を伸ばすときは
爪を切っておいてください

体温は高いようだ
だから冷気がまとわりついて
水分を表に出そうとする
空気さえも
身体だけ
通過していく

差し出された手には
いつもポケットテッィシュ
2つ3つを重ね持って
笑顔で
服の上から
押さえつけてくる

一生懸命
言葉を投げかけるのだけれど
相手の意識は言葉を避けて
服と体内の間に潜り込む

届いてこない
美しい写真、それはどこなのか
連なる言葉も、伝えたいと思っていないのか

助けを呼んでも聞こえていない

ずっと待っている
百年
舞っていて
暮れますか
もう
百年は
そんな夢を見た、話を繰り返し読んで
三夜目に怖くなって

部屋は閉じていて
完結していて
息苦しいばかり

夢を希望とは呼ばないでほしい
走る部屋を人は電車と呼ぶ
人間の嫌なにおいに満ちている箱

箱は小刻みに揺れていて
もうだめなやうだ、と
口に出して繰り返し読んでみて
死ぬんじゃないと
心の底から思って

そして誰かに
そう言って欲しくて

赤い街を歩いている


自由詩 帰りたくない Copyright 木屋 亞万 2009-11-28 16:24:06
notebook Home 戻る  過去 未来