散恋休
木屋 亞万

気球が一つ空に浮かんで
青と緑と茶色のまだら
金魚鉢に浮かぶ藻と餌の粒みたいに
風に流れていた

赤い雨が降ってきた
金魚が空から降るような空模様だった
気球は塗り上げられ、今にも破裂しそうなくらい熱を持った
紅く色づいてさっきよりも何倍も膨らみ
皮が薄くなって中が透けていった
気球は火照ったように真っ赤っか
ふわりふわりと空を浮かび続けている

血塗られた狐の嫁入りの中をうつろな目をして彷徨う
酔いつぶれた狸の金玉みたいに見えたし
膨らみ続けるガラスの赤ん坊のようにも見えた

つまりそれは恋だったのだ
大地の奥底深くに隠された恋は
ロバの耳を告発する叫びのように空を飛んだのだ
好きですというには勇気が足りなかった
SukidesuというにはU-kiが足りない
SdeS,sdes,see,ed,des,ess,ss,seed,de,dead

いつか降りてくるだろうと思った
膨らみ続ける苦しげな皮膜を
撫でることができるだろうと思った
頬を当てて熱を感じられるだろう
さりげなく唇をあてて
小さく丸くなって眠るのを
眺めることができるだろう、と

地上でもわかるくらい強い風が吹いて
赤い果実が裂けて揺れて弾けた
中には何も詰まっていないと思っていたのに
いくつもの赤い小さな粒が風船のような
頼りなげな足取りでバラバラと地面に降ってくるのだった
浮かぶことのできない
いくつもの赤い実が
風に遊ばれながら落ちてくる
浮遊、冬、ふうふう、浮遊

小粒のどれでもよかった
ほしい
いくつかあればなお良かった
懐に抱いて眠りたかった

赤い雨の中を深紅の実が降り注ぎ
太陽は海へと傾き始め
あっか、か、赤、あかあか、かあかあ、あっかっか
気球から飛び散る粒はそのどれもが天に昇らず
いままでどうやって飛んでいたのかわからないくらい
浮力を感じさせなかった
どれ一つ手元には降りてこないで
空を見もしないスーツ姿の男の足元にばかり届けられていった


自由詩 散恋休 Copyright 木屋 亞万 2009-11-22 00:03:58
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