こうして少しずつ滅びるのだろう(秋)
木屋 亞万



闇とともに冷え込む山林の
葉はかじかんで赤く染まる
熱を絞りだすように色づいて
焼け焦げたように枯れていく
臍の緒のように乾いた赤ん坊の手の平が
茎の上を這う苔の上に散らばっている
唐紅の葉群れの中で黄金色の紅葉が一本
きめ細かな黄緑の苔からすっくと立っている
柱と軒と床に切り取られた長方形の中に
浮かび上がる秋の庭
トルコ石のような池の中では
大きな鯉が身体を休めている
遠くに見える山々の褪せた紅葉のさまも
冬支度の半纏を着ているようだ
人が大挙して押し寄せる時刻を過ぎて
働くものだけが残されたときの池の静寂
本来はこうあるべきなのかもしれない
山野は沈黙の中で物音を遊ばせる
秋の息、揺れるススキの消え入る穂先
月は頼りなげに細長く
人間である私でさえ
増えすぎた人の無神経さに嫌気がさす
立ち入り禁止の柵を取り払って
禁止規則の看板を消し去れば
この庭は、山はどれだけ美しいだろう
枯れた枝垂桜の骨格に海月のような浮遊感が漂う
若き乙女の太腿のような竹が茂る林に秋の指が駆け抜けて
箱庭のような枯山水をやわらかに波打たせる
岩が痙攣でもしたかのように小石は波打ち
曇天の中で小さな糸月が微笑んでいる


自由詩 こうして少しずつ滅びるのだろう(秋) Copyright 木屋 亞万 2009-11-21 12:55:22
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