ア・ライフ (a life)
都志雄


ジェット機を出してくれ
ソコトラ島から恐山を経由してジュノーに向かうんだ
そしたらジェットはあんたの好きにしな

神様、僕はいつのまにか成功していたよ
だって命は赤々と燃え
風にそよぐ草原は僕の心だもの

僕は
無一文の大富豪
ぼろをまとった真正貴族

ミュージカルの第4幕は
気のすむまで僕の独唱
火をつけたのは僕じゃない!
時計を全部投げ捨てたら
『トロイの陥落』歌い切ろう
塔の上から炎を眺めて

僕は何も欲しくない
僕が欲しいのは虚無
僕が欲しいのは嘔吐
僕が欲しいのは灰にのたうつ瀕死の仔牛
欲しいのは、
欲しいのはぼんやりと姿を現す死
とそれに気づく生

ピカレスクな舞台装置は野暮ですなぁ!
そこに心奪われる人がいるなんてね
泥にまみれた男と女は
奴らの虚構の額縁の中で
甘い差し歯の棚卸し
瀕死の仔牛は誰にも気づかれぬまま
黒い津波にさらわれる
誰にも気づかれぬまま
永遠の静寂に戻された

舟を出してくれ
ガラパゴスからラケダイモン、
喜望峰廻って埼玉帰ろう
時の継ぎ目なら外せるから

神様、僕はいつのまにか成功していたよ
だって太陽はこの浜辺をも照らし
星の林は僕の宇宙じゃないか

虹を追いかけ野たれ死んだ
あなただけが僕のバサラ
黄金のファラオの頬は
あの日のままに輝いて
胸を射抜かれうずくまる
あの日の少年抱きしめる

しっかり者は
刺客たちと請求書
夜逃げ同然
金貨をまき散らして
僕は逃げ
追いつめられる

ああ
やっと
ジミー・クリフになれるんだよ

紺碧の空と海に溶けて・・・・・・・・・





自由詩 ア・ライフ (a life) Copyright 都志雄 2009-10-07 18:32:15
notebook Home 戻る  過去 未来