家族
水町綜助

石を蹴ったら靴が脱げて

靴を拾いに行ったら国境を越えた

そんな風に僕はあいさつをして

君はバナナを一本僕にくれた

皮をむいて

あまりおなかは空いていなかったけど

バナナはやっぱり甘く

おいしかった

黄色い皮は酸化して黒ずむ

薄い黄色の身は噛みごたえもなく

もくもくと口を動かすと

ちょうど口に出せない何かを飲み込むようで

飲み込んだバナナはその日の僕をはしらせ

翌日の僕となった

昨日の僕は

今日バナナを食べるなんてこと

考えてもいなかった



桜の花びらが落ちるのを目で追ったら

そこは川で

ドンドコ川下へ流れていった

もう目で追うことはできなかったので

空想すると

すぐ海に出た

嵐の夕暮れだった

桜は白い波にのまれ

浮かぶことはなかったが

海水の中をひらひら

舞い落ちて散った

それは結局

川沿いで散るのと同じことだった



海水というのは

本当に塩辛い

一口含むと

気が遠くなる

ぎゅっと目をつむり

飲み込むと

叱られたことを思い出す

母親とか

とくに女の子に怒られたことを



夕日が海へ沈み込んでも

だいだい色の水にはならないから

空想する

絵筆にたっぷりと染み込ませて

一息に沖合から

この足下まで光線を引く

波打ち際で掠れるけど

気にせず引くと

つまさきが熱かった


それは沖合から連なった

家族たち

その長い時間に流れた血液の

温度かも知れなかった



目を開いてとなりを見ると君がいて

僕たちの後ろから

子どもの声が聞こえた

ふり向くと

砂浜にはバケツとスコップがあって

高い防波堤の上には

まだ青いきれいな夕空が見えた








自由詩 家族 Copyright 水町綜助 2009-10-02 14:49:30
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