家族
水町綜助
石を蹴ったら靴が脱げて
靴を拾いに行ったら国境を越えた
そんな風に僕はあいさつをして
君はバナナを一本僕にくれた
皮をむいて
あまりおなかは空いていなかったけど
バナナはやっぱり甘く
おいしかった
黄色い皮は酸化して黒ずむ
薄い黄色の身は噛みごたえもなく
もくもくと口を動かすと
ちょうど口に出せない何かを飲み込むようで
飲み込んだバナナはその日の僕をはしらせ
翌日の僕となった
昨日の僕は
今日バナナを食べるなんてこと
考えてもいなかった
*
桜の花びらが落ちるのを目で追ったら
そこは川で
ドンドコ川下へ流れていった
もう目で追うことはできなかったので
空想すると
すぐ海に出た
嵐の夕暮れだった
桜は白い波にのまれ
浮かぶことはなかったが
海水の中をひらひら
舞い落ちて散った
それは結局
川沿いで散るのと同じことだった
*
海水というのは
本当に塩辛い
一口含むと
気が遠くなる
ぎゅっと目をつむり
飲み込むと
叱られたことを思い出す
母親とか
とくに女の子に怒られたことを
*
夕日が海へ沈み込んでも
だいだい色の水にはならないから
空想する
絵筆にたっぷりと染み込ませて
一息に沖合から
この足下まで光線を引く
波打ち際で掠れるけど
気にせず引くと
つまさきが熱かった
それは沖合から連なった
家族たち
その長い時間に流れた血液の
温度かも知れなかった
*
目を開いてとなりを見ると君がいて
僕たちの後ろから
子どもの声が聞こえた
ふり向くと
砂浜にはバケツとスコップがあって
高い防波堤の上には
まだ青いきれいな夕空が見えた
自由詩
家族
Copyright
水町綜助
2009-10-02 14:49:30