シャマンの唄
佐々宝砂

降りてくる。
それは不意に、
エスカレーターで、それともエレベーターで、
あるいは手すりのない広い階段を。
鏡に映るわたしの姿が歪む。
墜落する軽気球。

わたしは呼ばれている、
トンネルは暗い、
でもその向こうにほの見える景色は明るい。
砕けたグラスの輝き、
極彩色にきらめく鱗、
うねる蛇、巨大な。

呼吸を乱してはいけない、
叫び声を上げてもいけない、
裸足を地面につけて、
目を閉じて、
耳をふさいで、
見ろ、
そして聴け。

命じているのは誰だ。
ああああ。

咲き乱れるヒヤシンス、
滝の飛沫、
草原と崖、
見えない世界から吹いてくる風。
深い空にわたしは落ちる。

熱い大河がわたしに流れ込む、
わたしは膨れあがる、
わたしの手はなくなってしまい、
わたしの脚は遙か彼方に遠ざかる。
疼痛。喪失感。繰り返す落下。

わたしはシャマン、
現実に穴を開け、
事象を切り裂き、
言葉を伝える。
わたしはシャマン、
命令された通りに、
歌い、踊り、くるくるまわる、
息をするのさえ自由ではない。


自由詩 シャマンの唄 Copyright 佐々宝砂 2004-09-01 10:24:27
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