Shaman's Love Song 2
佐々宝砂

私は知っていた
この部屋に積もる埃全てに意味があることを
皮膚をかきむしってもかきむしっても
私の皮膚がぽろぽろとこぼれるばかりで
わずかに血がにじむだけであることを
睡眠薬の眠りは決して
私を望む旅路には連れ出さないことを

ドアはいつも目の前にあり
ドアはいつも閉ざされて

私は知っていた
歌わねばならないということを
未生のこどもたちのために
月に昇ったまま帰らないこどもたちのために
歌わねばならないということを
銀色の梯子は声を伝えないので
できるかぎり声を張り上げなければならないということを

目を閉ざせば砂浜が広がる
どこまでゆけば海にたどりつくのか
そもそも私の足は砂を踏まない
風紋は私の足に乱されない
私は歩いていないのだ

コンクリートの壁がたちはだかるなら
他愛なく乗り越えてゆけた
(そうだ私には翼があるのだから)
濁流が行く手をさえぎるなら
あっさりと跳び越えてゆけた
(そうだ私は重力を無視できるのだから)

けれど私はこの部屋から出られない
この部屋のドアを開けることができない

目を開いても砂浜が広がる
海が見えたら
海が見えたら
海が見えたら

潮の匂いを髪にしみこませて
ただ私は叫び
ただの一歩も動かずにいる


自由詩 Shaman's Love Song 2 Copyright 佐々宝砂 2004-08-31 05:04:03
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