目薬
水町綜助

めぐすりの一滴
まるい瞳を覆うように
濡らして

顔を上げ
二本の指で広げ
くりかえす
くりかえす音
地下鉄は走りつづける
窓から漏れる明かりだけに
照らされる壁が
ながれる傍線が
首の描く斜線を
切って
体にアンダーラインを引く
うるおってゆく朝に
夜に
落とす一滴のたてる
音に
たたくような
ボタンを押すような
何度も押すような
押すような
隣人をよぶような
部屋に明かりは点いている
テーブルをたたく音が聞こえる
リモコンを押す指が
震えている
ふれる瞬間に
気の遠くなる望遠を綴じ込んだ1ミリたらずを
やわらかいものを
押し込む瞬間に
もっと遠くへ
何色だろうか
その音の色は
フライパンをシンクへ
投げ込む音は黄色だ
書き文字を書き入れるまでもなく
ひらくだろう
ひしゃげて尖った菱形が
口を開けて
しずかに呼んでいる
さまざまに音色を変えては
気づけない法則性を打ち込んで
押し続ける
ボタンを
一列に並べたボタンを
ひらかれた手のひらで
ひらいた瞳のまるさに
貫くような刺激
つめたい
うるおいまるく
球体を覆うように
張った根を
絶やすように
植物が水を
吸うように
傍線を引くように
あしあとをせいれつさせ
ふぞろいさを
なだめるように
比喩するように
するように
しなさい
うごきなさい
ねむりなさい
たべなさい
いやです



自由詩 目薬 Copyright 水町綜助 2009-04-14 22:59:59
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