鮮やかさに、ヤラレタ。
田島オスカー




あいつの中指にはまっていた銀メッキの安い指輪を
ある日黙ってぽいと捨てた
ら、怒られたのでここにいる
だってあれはあの人からの贈り物だった

窓辺から聞こえていたのは近くにある中学校の野球部の声で
うざったくて閉めた窓に 指をはさんでしまった
あ、泣く、しかし思うほど泣けないのは昔と同じで
二階の窓 下を除いてももう指輪は見えなくなっていた

ここにいると 少し悪かったなと思ってしまって
それが悔しいので部屋には入らない
夕陽がもうすぐ沈みそうだ
野球部もそろそろ終わるだろう
そしてこのドアを一枚隔てて
今ごろあいつは中指を曲げたりしながら きっと不貞寝をしている

屋外は寒い
不貞寝をしているであろうあいつを思うとなお寒い
しかしそれは愛情の大小の問題ではなくて
きっと 鮮やかさだ
気温が低いと身震いするほどあいつは鮮やかになる
這い回るのはいつも胸の中で
かぶさってくる時の熱は 妄想の中 寒さに負ける

あの人の指輪を捨てたのは単なるやきもちだということに
本当は気付いてはいけなかった
あまりにあいつが鮮やかだったから
それは言い訳にはならないよ

ああ、泣く、鮮やかさに負けて。
 


自由詩 鮮やかさに、ヤラレタ。 Copyright 田島オスカー 2004-08-20 22:31:08
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