夏の収穫
水町綜助

入り組んだ路地を幾つも
曲がって歩いていると
街を知るように街を見失い
緑色に光る道に出た
夜のうち街灯は光るようで
電球をみれば灯りは点いていない
靴音が聞こえないので足元を見れば
履き忘れてきてしまった
緑色の光は
ビルの壁一面にはびこった蔦やら
実った果実の味だった
ひんやりとした地面は
じゃりじゃりと砂っぽくて
雨もあがったあとの
その先の見通せない水滴のなか
立ち上る、農園のにおい

八歳の夏
信州の小さな村の
山あいの菜園で
実った赤いトマトや
産毛みたいにやわらかな手触りのオクラ
そして青いキュウリの収穫を手伝った
さほど高いというわけでもない山の斜面から
山村のまばらな屋根が見えて
信州の夏らしい透明な日差しが
一面のあらゆる緑を光らせていた
肌はまだ白く
瞳はまるまると開かれて
赤みの残る髪の毛は
風に晒されるままさらに色を失い
目を凝らせば青色の
小さな燐光を点らせてなびき
また幾本かは持ち上げられた
広がる光景と
生きていることで無自覚に綴られていく
寓話の確かな存在に気付いた驚きと
際限なく広がるかのような地図と
血管を透かす薄い皮膚の
からだの行き先にふるえた

傍らで天道虫と遊ぶ
同い年の友人を呼び
山の向こうを指さす
白くかすんでいる

さした指先は
真っ直ぐにはさされず
いつかどれだけの
圧倒的な誤差を見るのかしらない
見渡して
見たことのない場所で
わすれても
それを感傷的に終わらせることはしない




自由詩 夏の収穫 Copyright 水町綜助 2008-12-02 01:57:59
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