芋粥
木屋 亞万

朝焼けは夕焼けに似ている
赤ん坊と老人が似ているように
どちらも生命の底力に満ちている
朝の6時半に店のシャッターを開け
芋粥を作る母さんの割烹着
糠床を掻き交ぜ茄子を一本取り出し
畑の歪曲した胡瓜を新たに漬ける

米もサツマイモもいい具合に
とろとろに煮詰まり、茶の香が
隠れきれずに現れてくる
しおらしい紫の茄子の小皿
小さな土鍋の粥を二人向き合って食べる

朝は粥に限るなぁと呟くと
はふはふと笑う、歳を重ねて
より猫に近付く母さんの舌
ああもう母さんではないのか
娘はもう家を出たから
この家には再び二人しかいなくなった
新婚の頃が懐かしいな、
ご飯とみそ汁、塩鮭まで食べていた

店のセンサーが来客を知らせる
おお、もう一番客がやってきた
私が店に行こう
母さんはゆっくりお食べ
いらっしゃい、毎度どうも
今日も元気そうだね
へへぇ、そうかいあんたにも孫がねぇ
また写真を見しとくれよ
おやぁ、綺麗な朝焼けだねぇ

私のところにも来月には孫ができる
母さんもばあさんになり
私もじいさんになる
もう母さんを下の名前で呼ぶことはないのだ
孫はきっと私らに似ているだろう
赤ん坊は老人に似ているから
朝焼けが夕焼けに似ているように


自由詩 芋粥 Copyright 木屋 亞万 2008-09-16 16:58:00
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