カランダッシュと電波
木屋 亞万

世界を感じる旅に出た知己から、手紙が届いた。
写真が一枚同封されていて、白い息を吐く馬と白眉を垂らして笑う彼がいた。
手紙の文末には「君が好きそうな響きを見つけたので、一緒におくります」と書かれていた。
封筒をひっくり返すと、鉛筆が一本転がり出てきて
「カランダッシュ=魔法の鉛筆」というメモが貼られていた。

手始めに私は感謝の念を込めながら、彼の写真の模写をした。
ルーズリーフに広がる彼と馬、少し間延びした顔になってしまった。
カランダッシュとつぶやいてみる。雪国の人のように、あまり口を開かないようにして、もう一度。

カランダッシュには不思議な力があるようで、風景や静物ばかり描いていた私が、何気なく人物を描くようになった。
それまでは目の前にあるものを、好きなだけ時間をかけて描いてきた。
人は待ってはくれないし、技術の稚拙さが目立つので、描く気にならなかったのだ。

手紙によると彼は、この鉛筆を魔女から譲り受けたらしい。
臼に乗って空を飛ぶ魔女の婆さんが現れて、カランダッシュと言いながら彼に手渡してきたらしい。
言葉の響きから私を思い出し、私に手紙を書いたという次第だそうだ。

魔力は遠隔の地でも有効なようで、私はその鉛筆ですぐさま知己を描いたのだ。
魔女に操作されるように、知己が期待していたように、私は人物を描き始めたのだ。
それから、私も旅に出ることにした。
首からカメラをぶら下げて、人の笑顔を写しては、その写真を丁寧に模写していく。
もちろんカランダッシュを使って。

世界を旅していると、たまに知己の居場所がわかって、私はわざと出くわすように迎えにいく。
私たちは電波で繋がっているのかもしれない。
太陽と月のように対になって、地球の周りを移動しているみたいだ。
一つの世界と一つの魂を感じる。

カランダッシュが朽ちる時まで、私は旅を終えないだろう。


自由詩 カランダッシュと電波 Copyright 木屋 亞万 2008-08-31 00:22:16
notebook Home 戻る  過去 未来