野球
木屋 亞万

疲れ果てた大地に雨が降った
染み込んでいく一粒ひとつぶが
次第に流れを作りはじめて
大地の顔をぐしゃむじゃにしてしまう
泣いているのか死んでいるのか
わからないような崩れ具合で
少し不安にさせられる


誰もいない大地
塗料がはげている緑色の三塁側
長椅子と天井に湿気がこもる
誰かが忘れていった軟球が
ひとつぶに洗われて大地に沈んでいく
塁の回りは水溜りが激しい
打席は特に深い穴
大地には誰もいない


背広の背中が汗ばむ
雨の中で汗をかくのは気色が悪い
湿度にどうも参ってしまう
いっそのこと濡れてしまえ
鞄の書類、名刺や機械類もすべて
機械の記憶などひとつぶに濡れて
大地に沈んでしまえばいい


いつか大地に流れ去った
最初で最後の夢のように
活躍もできず期待もされず
少しの気遣いで試合に出場し
居た堪れなくなった死後の帰還
自信なんてなかった
才能なんてなかった


ただ野球が好きだった
いつだって夢や希望は
雨の中に流れ去ってしまう
それが心地よく感じてしまうくらい
泣いているのか死んでいるのか
わからないほどぐしゃむじゃになる


右胸の奥には割れた軟球
足元にはいつも深い穴


自由詩 野球 Copyright 木屋 亞万 2008-08-23 00:04:58
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象徴は雨