夜球
木屋 亞万

夜に拾った球を舐めてはいけない
わかっていたはずなのだ
私は舐めてしまった
砂利道の中に落ちていた
黒い小さなビー玉

始めは頬がシリシリと痺れ
舌は硝子の冷たさと甘味
腐った葡萄か苺のようなシリシリ
次第にこめかみ辺りまでシリシリ
唾を飲むたび喉もシリシリ

夜に口笛を吹いてはいけない
針仕事も爪を切るのもいけない
これらは身を守るための禁止
夜に拾った球を舐めてはいけない
これもそうだったのだ

舌の上、球の中で、男女が二人
裸になって何かをしている
好きな女と嫌いな男との営みに
胸がシリシリと裂けそうな
夜、
真夜中

飴玉を呑んで
喉に詰まってしまえばいい
明日という言葉が
死後という言葉に近い感じ
来年の春と呟いて
来世の恋のように響くこと
シリシリする頭で感じる

夜球をかみ砕こうとする
奥歯は硝子には勝てない
腐った葡萄か苺のような
心には、
好きな女
隣には、嫌いな男
手足がシリシリと痺れ
目が妙に熱を持つ
頬がシリシリと赤くなる



自由詩 夜球 Copyright 木屋 亞万 2008-08-21 03:22:08
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