金剛石(ダイヤモンド)
木屋 亞万

朝も
沸く客席
青空はまだ
夏の子供
踊る応援
内野も外野も
黙ってはいない
魔物が潜む宝石に
青年は魅了され
汗を惜しまず
走り回る
太陽と砂の中
活躍する
大きな革の手袋が
ここのつ

水を撒き
土を馴らし
バットは腹を
光らせている

打ち返された球
遊撃手は
いつものように
追いかけて
飛ぶ
体勢崩れて
二塁手に球を委ね
手早い送球
一塁手へと繋ぐ

打者は球から
塁に目標を変えて
頭から滑り込む
揺れるヘルメット
泥にまみれた
二人が立ち上がる
軍配は攻撃者に上がる

二塁手の投げた球は
一塁手の足元で弾んで
抜けていく
二塁手の指先が
所在なげに垂れる
何度も何度も
何度も投げてきた
一塁手への送球

三塁走者二塁走者が
ホームに帰り
逆転負けとなる

遊撃手の好守備が
掴んだ勝利を
二塁手が零した
一塁手も拾えず
試合は終わる

投手は捕手は
否、チームの皆が
己の利き手を見る
9つの手袋が垂れる

宝石には魔物が棲む
努力と才能が
勝利を目指しては
ダイヤモンドに
集まる

何度も何度も
投手は捕手へ
守備者は塁手へ
少しでも速く
確実に

彼らの数年に渡る
何度も

揺るがしたのは
他ならぬ好敵手の努力

と、
ダイヤモンドの魔物
客席は最高に沸く


自由詩 金剛石(ダイヤモンド) Copyright 木屋 亞万 2008-08-17 01:23:53
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